月の雫を集めるなら、三日月の夜を狙うのが常識だ。
三日月の夜、月がよく見える小高い丘は、月の雫を求める少年達でささやかに賑わう。

その集まりに、初めて弟を連れてやってきた。出がけに酷くせがまれたのだ。
「おい、何だよその子供、」
「弟だ」
「弟? まだこんな小さい坊やには、刺激が強すぎやしないか、」
「坊やじゃない、平気だよ」
悪ぶった友達の問いに答えたのは、息まいた弟だった。
女の子みたいな顔をして、本当に向こうっ気が強い。
けれど、シャツの裾を握りしめた手が震えているのを知っていた。
その時、三日月が丘の真上に差しかかった。
少年達は思い思いのグラスを取りだして空に向けてかかげた。
慌ててグラスを2つ取りだし、1つを弟に持たせてやる。
弟は、集まりの中で1番のチビのくせして、誰よりも高くとグラスを捧げもつ。
自分よりも年上の少年達の集まりに出ることが、よほど誇らしいらしかった。
小さな頬は、期待と誇らしさでバラ色に上気している。
「さぁ、来るぞ」
誰かが声を弾ませた時だ。
青白く輝く三日月の縁が、にわかに潤んで揺れた。
それは弧を描く月の背を伝い、みるみるうちに三日月の杯の内にたまっていく。
やがて…ぽつり。ぽつり。
三日月は、半透明な白い雫を、少年達のグラスに落としだした。
高いグラスにも安物のグラスにも、平等に3滴ずつ。
丘の上の少年達のグラスは、香しい柑橘系のリキュールで満たされた。
たちまち、あちこちで乾杯の声と、グラスの触れ合う涼しげな音が響く。
大人達には秘密の、少年達だけのささやかな宴だ。
月に1度、三日月の晩だけ、少年達は誰の目をはばかることなく、少量の美酒に酔う。
「さぁ、いただこう」
言って、弟を振り返って、ようやく弟の様子がおかしいことに気づいた。
弟は自分のグラスを両手でつつんで、妙な顔をしている。
「どうした、」
弟は、眉根を寄せてグラスを差し出した。
見れば、弟のグラスには、リキュールの代わりに乳白色の輝石が3粒入っていた。
…ムーンストーンだ。
大人未満子供以上の少年達に、月に1度だけリキュールを振舞う寛大な月。
けれど、まだあどけない弟にそれを勧めるのは気が引けたらしい。
これはその代わり、ということなのだ。
年上の少年の集まりに出られて、誇らしい気持ちでいる弟にそれを教えるのは、何だか気の毒で。
黙ってグラスから1粒石を貰うと、
「1口だけだぞ」
と、弟にリキュールの入ったグラスを渡した。
嬉しそうに笑って、こくりとリキュールを飲み下す。
「苦い」
子供じみた仕草で、弟は舌を突きだした。
「こんな苦いものよく飲めるね、兄さん。まだ僕には早いみたいだ」
次に弟を連れてこの集会に来るのは、しばらく先になりそうだ。
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《ムーンストーン》 6月の誕生石
和名:月長石。
意味:母性本能。
透明度が高い長石の仲間。
乳白色のものが有名だが、人気があるのは青みがかかったブルームーンストーン。
特に美しいものは、ロイヤルブルームーンストーンと呼ばれている。(写真はロイヤルブルームーンストーン)
恋人に贈ると愛が深まると言われているパワーストーン。予知能力を授けてくれるとも。
