
春先の流氷クルーズは、大人よりも子供たちに人気がある。
案の定、乗りこんだ砕氷船は少年達でごったがえしていた。
「楽しみだね、兄さん」
まぁるい頬をバラ色に染めて笑う弟の胸元には、クリスタル製の小さなボトルが下がっている。
他の少年達の胸元にも、同じペンダント式のボトルがもれなく光っていた。
このクルーズを企画しているスィンザー社の標章がきざまれた、洒落たデザインだ。
少年達の購買欲をくすぐって、砕氷船のワゴンショップの1番の人気商品だ。
スィンザー社の手腕がうかがえる。
ボトルの中の液体は色とりどりで、赤、緑、黄色に青。
少年達の胸元を彩っている。
その時、煙突が灰色の空に向かって煙をはいた。
汽笛が鳴り、少年達に合図する。
分厚いコートを着た船員達が次々に氷の大地の上に降りていき、作業にとりかかる。
ここからが、このクルーズのメインイベントだ。
澄んだ透明の氷を、ほどよい大きさに割り砕き、甲板にいる少年達に手渡していく。
行儀良く一列に並んだ少年達は、受け取った氷を手にワゴンへ走る。
この時は、ワゴンのカウンターにはカキ氷機が並べられていて、流氷の欠片をカキ氷でいただくという趣向なのだ。
ここで活躍するのが、あのペンダントボトルだ。
流氷の欠片をカキ氷にした少年達は、胸に下げたボトルを開け、色とりどりの液体をふりかけていく。
ボトルの中身の正体は、シロップだったのだ。
他の少年達に混じって、嬉しそうに氷いちごをほおばる弟を遠目にながめていたら、
「ほら、君も」
流氷の上の船員が、小さな欠片を投げてよこした。
「でも…」
シロップを持っていない。言いかけると、船員はにんまり笑う。
「いいから、いいから」
その声に背中を押されて、仕方なくワゴンへ向かう。
弟がやって来て、手元をのぞきこむ。
「あれ、兄さん。カキ氷なんて子供っぽいもの、食べないんじゃなかったの、」
「うるさいな。もらったんだ、仕方ないじゃないか」
いじわるなその笑みを振り切って、氷を機械にセットした。
ところが、回そうとした刃は、カキンという音1つたてて止まってしまった。
「あれ、おかしいな」
「兄さん、あれ」
刃先をのぞきこんでいると、弟がワゴンのカベを指差した。
カベに張られた張り紙を見て、納得した。
”春先は、氷の中にクォーツが混じっていることがあります。ご注意ください”
船員の、いたずらっぽい笑みが浮んだ。
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《クォーツ》 4月の誕生石
和名:石英。大きな物が水晶と呼ばれ、古くは玻璃とも。
意味:純潔・清純。
クォーツの名よりも、クリスタルの名の方が馴染みがあるかもしれない。
透明、黒、黄色、紅色など様々な色がある。
4月の誕生石のクォーツは、無色透明のものを指すのが一般的。
パワーストーンとして、幸運を呼び寄せるといわれている。

