黄昏時を待って、廃園になったハーブガーデンへ忍び込む。
人の手が入らなくなって久しく、戒めを解かれた草花が野放図に茂っている。
ひときわ甘いバニラに似た香りが、あたりに満ちていた。
ヘリオトロープの花の香りだ。
少し進んだところに、ヘリオトロープのアーチがある。
アーチをくぐると、頭上には薄紫の小さな花が咲き乱れている。
弟は待ちきれずに、アーチの下にしゃがみこんで、じっと頭上の花に目を凝らしていた。
「そろそろかな、兄さん」
「もうしばらくかな」
「すぐだよ。ほら、もう空が菫色になってきた」
弟は、ポケットから黒いビロードを取りだして広げた。
「落ちてきたら、すぐにこれに包んでね兄さん。アメジストは、日差しに弱いから」
「分かってる」
すると夕焼けが山の端にかかり、空がヘリオトロープ色に染まると、頭上の花がいっせいに夕闇に溶け出した。
小さな花がつぎつぎに枝を離れ、地面に敷いたビロードの上にはらはらと落ちてくる。
黒いビロードの上に、紫色の小さな宝石が降りつもる。
「ほら、もういいんじゃない、」
「分かってるって」
せかされて、散らばった宝石をくるんで包みこむ。
その包みの重さに、弟は満足そうにうなずいた。
「あまいシロップがたくさんできるね。ゼリーもいいかな」
「子供だな。夕暮れ時に摘んだのは、食前酒にするのがいいんだ」
「おとなぶってさ、」
弟は少しだけ寂しそうに笑った。
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《アメジスト》 2月の誕生石
和名:紫水晶。アメシストは英語の発音。
意味:高貴・誠実。
その名の通り、紫色の水晶。水晶の類の中では最も高価。
気品のある色合いから、占術などに用いられることも多かった。
パワーストーンとして、感情を落ち着けてくれる効果があるとされている。